労災レセプトはここが違う!算定漏れ・請求ミスを防ぐ点検フローを解説
労災診療は、通常の保険診療とは異なるルールや様式が多く、レセプト請求で算定漏れや請求ミスが起こりやすい領域です。
算定漏れがあれば、本来回収できる診療報酬が未請求となり、クリニックにとって大きな損失となります。
また、請求間違いによる返戻や査定は、再提出対応でスタッフの負担を増やし、業務効率を大幅に低下させます。

本記事では、
- 労災レセプトで算定漏れが起きやすい理由
- よくある間違い事例
- 点検の基本フロー
- 防止のための実践的な点検方法
- 再発を防ぐ仕組みづくり
を徹底解説します。

株式会社パドルシップ 代表取締役
京都大学卒、京都大学大学院修了
総合電機の技術職、日系コンサルティング会社で新事業企画、ベンチャー支援等の経験を経て、2023年に株式会社パドルシップを設立。
江戸川区のクリニック立上や戦略立案、集患を経験し、現在も経営に参画。

1. なぜ労災レセプトは算定漏れや間違いが起きやすいのか?
労災請求は、一般保険診療に比べて下記の要因でミスが発生しやすくなります。
- 労災診療と関係のない診療内容の扱い
労災診療と通常診療が同日に行われた場合、区別して請求する必要があり、分離処理を誤ると返戻。 - 必須情報が多い
労災番号、事業場情報、負傷日など、必須項目の入力漏れは労災様式の差し戻し原因に直結。 - 労災特有の加算条件の見落とし
四肢加算など、労災独自で認められる費用の算定を忘れるケースが多い。
2. 労災レセプトでよくある算定漏れと間違い事例
算定漏れ例
- 四肢に対する特例取扱いの加算
- 労災独自の指導料、管理料の算定
間違い例
- 業務災害(5号様式)だが、通勤災害(16号の3様式)の労災様式を預かってしまった
- 労災診療とは関係のない診療を含めて請求してしまった
- 労災番号・事業場情報の誤記
3. 労災レセプト点検の基本フロー(流れ)
算定漏れや返戻を防ぐには、標準化された点検フローを構築することが重要です。以下は、実務で使える基本の流れです。
ステップ1:初診時情報の確認・入力
- 労災番号、負傷日、事業場情報、労務災害状況を必ず受付で確認。
- 確認漏れ防止のため、「初診チェックシート」などを作成し活用してみる。
ステップ2:カルテと診療行為の突合
- 診療録の内容と、レセプト請求予定内容を比較。
- 創傷処置・検査・投薬・画像診断など、算定対象になりやすい項目を重点確認。
ステップ3:請求形式と必須情報の確認
- 請求モードが「労災」になっているか。
- 必須情報(労災番号・事業場名・所在地・負傷日・医師署名など)をすべて入力済みか。
ステップ4:労災特有の算定項目確認
- 特定処置や検査加算の抜け確認
- 労災対象外診療との分離が正しくできているか
ステップ5:添付書類の確認
- 労災様式の有無
- 医師記載・押印が済んでいるか
- 書類送付の進捗を一覧で管理
出典:厚生労働省
主要様式ダウンロードコーナー (労災保険給付関係主要様式)
ステップ6:ダブルチェック
- 請求前に必ず別スタッフが最終確認。
- 「一人点検」ではなく「二重確認」でエラーリスクを最小化。
4. 労災独自で認められる費用と算定例
労災診療では、健康保険診療にはない特有の請求が認められています。
これを把握していないと、算定漏れによる未収損失が発生します。
① 四肢加算
- 手(手関節以下)及び手指に係る一部の処置及び、手術の点数は健保点数の2倍として算定できる。
- 四肢の傷病に対する処置・手術・リハビリテーションの点数は健保点数の1.5倍として算定できる。※1点未満の端数は切り上げ
- 算定方法:四肢に係る一部の処置または手術の算定時に加算追加
- 注意:四肢加算対象外の処置・手術・リハビリテーションがあるので要確認
② 義肢・装具・コルセットなどの補装具
- 労災では、治療に必要な補装具の費用を別途請求可能。
- 算定方法:製作指示書、領収書を添付して請求。
- 注意:事前に労基署への申請・承認が必要な場合あり。
③ 特殊材料(ギプス・シーネ・創外固定具など)
- 手術や処置で使用する特殊材料費は、労災請求で認められる。
- 注意:健康保険と同様、使用量・部位・必要性を明確にカルテ記載。
④ 特定処置に伴う費用
- 創傷処置、外固定など、業務災害由来の治療で発生する費用を確実に請求。
- 算定漏れリスクが高い例:
- 四肢加算
- コンピュータ断層撮影料の特例加算
- 創傷処理以外での初診時ブラッシング料の算定
⑥ 労災様式・証明書の取扱料
- 労災様式、休業補償用証明書などの文書料は、労災保険で請求可能。
- 算定例:
- 初回の診断書(様式第5号など)→ 療養の給付請求書取扱料 2,000円
- 休業補償給付支給請求書(様式第8号など) → 休業に関する給付の請求取扱料 2,000円
5. 算定漏れ・間違いを防ぐための実践チェックリスト
労災レセプトは、請求漏れリスクが高いため、請求前に以下の項目を必ず確認しましょう。
このチェックリストを業務フローに組み込むことで、ミスの低減が可能です。
1. 労災番号・事業場情報の入力確認
- 確認タイミング:受付時・初診時
- 労災請求では、労災番号、事業場名、所在地、負傷日などが必須項目です。
これらが未入力だと請求自体ができず、再提出の手間が発生します。 - 対応策:初診時に必ず確認。
2. 請求モードが「労災」になっているか
- 確認タイミング:レセプト作成前
- 健保モードのまま請求してしまうと、請求先が間違いになり、返戻や未収につながります。
- 対応策:レセコン設定を請求直前に再確認し、必ず「労災」モードで送信。
3. 診療行為と業務災害の因果関係をチェック
- 確認タイミング:レセプト点検時
- 労災では、業務災害に起因する診療のみ請求可能です。
- 高血圧や糖尿病などの慢性疾患は含めないこと。
- 対応策:カルテ記載を確認し、「業務災害に関係する診療か?」を必ず確認。
4. 算定漏れがないか確認(特に創傷・処置・加算)
- 確認タイミング:請求前最終チェック
- 外傷治療では、複数指の創傷処置や縫合、特殊材料などの算定漏れが発生しやすいです。
- 例:指4本の裂創→1本分しか請求していないケースは大きな損失。
- 対応策:部位別・件数別の算定が正しく反映されているかをチェック。
5. 添付書類の有無(様式第5号・第7号など)
- 確認タイミング:請求前
- 書類不備は、返戻・未請求の最大の原因です。
- 対応策:請求案件ごとに添付漏れをチェックし、進捗を一覧化。
6. 仕組み化で「ヒューマンエラー」をゼロにする方法
ヒューマンエラーは、個々のスキル不足や注意力の問題だけでなく、属人的な業務フローや確認体制の欠如が根本原因です。
医療現場では、請求漏れ・添付書類の不足・請求モードの誤りといったミスが、クリニックの収益や信頼に直結します。
このため、「人が忘れない仕組み」をつくることが最優先の対策です。
1. 業務フローを標準化する
- 問題点:ベテランスタッフの“暗黙知”で運用している場合、スタッフ交代時に知識の断絶が発生しやすい。
- 対策:
- 「初診対応」「レセプト点検」「請求前チェック」の流れをマニュアル化
- 書類添付や資格確認などのチェック項目を明文化
- 「初診対応」「レセプト点検」「請求前チェック」の流れをマニュアル化
- 効果:誰がやっても同じ品質で業務を進められる。
2. チェックリストを導入する
- なぜ重要?:レセプト業務は多岐にわたり、漏れやすい工程が多い。
- 実装方法:
- 「請求前チェックリスト」を紙またはGoogleスプレッドシートで共有
- 項目例:「労災番号確認」「様式第5号・第7号添付」「診療行為と病名の整合性」など
- 「請求前チェックリスト」を紙またはGoogleスプレッドシートで共有
- 効果:“人の記憶”に頼らず、チェックの抜け漏れを防ぐ。
3. デジタルツールでアラートを設定
- 問題点:口頭確認や目視のみでは、繁忙期にミスが発生しやすい。
- 対策:
- 電子カルテ・レセコンの「未入力・未請求アラート」機能を活用
- 「保険証未確認」「治癒日未入力」「請求モード健保のまま」などを自動で検出
- 電子カルテ・レセコンの「未入力・未請求アラート」機能を活用
- 効果:作業者の確認負担を軽減し、エラーをシステムが補正。
4. ダブルチェック体制を構築
- 問題点:一人で請求業務を担当していると、チェックが甘くなりやすい。
- 対策:
- 「入力担当」と「確認担当」を分ける
- 外注(レセプト代行サービス)との連携で、専門家による二重チェックを導入
- 「入力担当」と「確認担当」を分ける
- 効果:属人化を防ぎ、重大なミスを未然に防止。
5. 「例外処理」を明確にする
- 問題点:患者起因で発生するケース(保険証未持参、公費未着など)が標準フロー外になると、放置や遅延の原因に。
- 対策:
- 「月遅れ対応マニュアル」を作成
- 例:「未確認患者リストを毎週確認」「SMSでリマインド」「対応期限を1週間以内に設定」
- 「月遅れ対応マニュアル」を作成
- 効果:特殊ケースでも対応が遅れず、請求漏れゼロを実現。
6. 教育と振り返りを仕組みに組み込む
- 対策例:
- 月次で「返戻・査定の原因」を集計し、チームで共有
- 返戻トップ3を重点改善し、マニュアルに反映
- 月次で「返戻・査定の原因」を集計し、チームで共有
- 効果:同じミスの再発を防ぎ、業務レベルを全体で底上げ。
7. まとめ|点検フローを仕組み化して算定漏れゼロへ
労災レセプトは入力項目や書類が多く、人の注意力だけではミスを防げません。
しかし、点検フローの標準化+チェックリスト+外部サポートで、算定漏れや返戻は大幅に減らせます。
当社のレセプト代行サービス「メディサポ」では、労災請求を含むレセプト点検を専門スタッフが代行し、返戻率削減・請求漏れ防止をサポートします。
「労災レセプトでのミスや算定漏れに悩んでいる」というクリニック様は、ぜひご相談ください。

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