非常勤医師の雇用の妥当性を「データ分析」で判断

開業医としてクリニックを運営していく立場になり、医師としてよい医療を提供することはもちろん重要ですが、クリニックの経営者として自院の経営をしっかり分析し、改善していくことも非常に大切です。

とはいえ、経営分析の経験がなければ、何をどのように分析すればよいか、わからないことも多いと思います。

そこで、そのような開業医の先生方にむけて、クリニックの事務長を経験した筆者が、効率的に経営分析を行うためにダッシュボードと呼ばれる経営の可視化ツールを開発しました。

実際に当該クリニックにもダッシュボードを導入したことで種々データを用いて経営改善の議論がしやすくなったことや、分析するためのデータの前処理時間を削減できたことなど、様々な効果が得られました。ぜひ皆様のクリニックでも活用できたらという想いで記事を書いていきます。ご参考ください。

非常勤(アルバイト)医師を雇用するかについて

皆様のクリニックでも非常勤で医師を雇用しているケースは多いのではないでしょうか?

医師の給与水準は一般的に高水準にあり、経営の意味では人件費が多くかかります。

しかしながら2診にすることで患者数を拡大できる、診療科目の幅を拡げられるなど、直接的な売上向上に寄与できる要素も強いと思います。

では、非常勤医師による売上向上やその他のメリットに対し、その給与水準が妥当かを評価するにはどうしたらよいのか、その分析の考え方についてご説明いたします。

非常勤(アルバイト)医師とは

非常勤医師とは、正職員として勤務せずに働く医師のことです。

2015年の日本医師会の発表では、非常勤医師を雇用している病院の割合は92.1%※1とのことで、ほとんどの病院で非常勤医師を採用している状況です。

クリニックにおいても非常勤医師を採用しているケースは多いと思いますが、これから雇用を検討される場合、後述のメリットや給与水準を鑑みて非常勤医師を採用するか、雇用した場合に人件費が妥当かどうかを経営目線で判断していくことになるかと思います。

※1 2015年7月8日 日本医師会総合政策研究機構 「病院における必要医師数調査結果」P.8

非常勤医師の給与水準

厚労省の統計「令和3年賃金構造基本統計調査」によると、非常勤医師の1時間当たりの所定内給与額は1万1,231円(平均年齢46.7歳)※2で、他産業と比較しても比較的高水準です。

診療科や地域によっても当然異なりますが、日給にして8万円程度の給与をお支払いし、診療を任せるということです。

では、非常勤医師に診療を任せるメリット、デメリットについてご説明いたします。

※2 厚労省「令和3年賃金構造基本統計調査」における「短時間労働者の職種(小分類)別1時間当たり所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業別)」

非常勤医師を雇用するメリット・デメリット

メリット

まずメリットですが、院長先生の時間を作ることが最大のメリットではないでしょうか。

クリニックを経営している院長先生は業務範囲が多岐にわたります。診療だけ行うのではなく、経理業務や人事労務面など目に見える診療外業務もあれば、スタッフとの調整、円滑に組織を回すための時間や近隣の病院やクリニックの先生方との対外的な関係性づくりなど目に見えない業務に時間を割かれているのではないでしょうか。

週に1日でも診療を任せることにより、院長先生の時間をつくることによる効果は大きいと思います。

また、違う科の先生を雇用し、標榜することができれば、診療科の幅を広げることができ、自身の患者さん以外の患者さんが来院できることになり、売上が純増することも考えられます。

デメリット

次にデメリットですが、人件費以外のデメリットとしては、医療の品質面でのレピュテーションリスク(ネガティブな評判、風評、誤情報等によりクリニックの評価が下がるリスク)が最大のデメリットではないでしょうか。

医師として信頼できる方を雇用できる場合、このリスクは最小化できますが、これまでの診療および外来能力を推し量れない方を採用する場合、院長先生の思うような対応をしてくれないことも考えられます。いわゆる医師としての技能の他にも外来患者を診る上での最低限のコミュニケーション能力などは採用する前に評価しておきましょう。

考えられるメリット、デメリット例を以下に記載致します。ご参考になれば幸いです。

区分メリット例デメリット例
定性面・先生の時間をつくれる
・人気のある非常勤医師の場合、クリニックの権威性、広告効果が高まる
・クリニックのレピュテーションリスクが高くなる
・価値観等の違いによりマネジメントに時間がかかる
定量面・非常勤医師が診た患者さんの売上・院長先生よりも時間あたりの患者数が少ない
・必要な処置を行っていないなど診療点数の知識不足による単価減
非常勤医師を雇用するメリット・デメリット

非常勤医師の人件費の妥当性評価

最後に、先述のメリット、デメリットを踏まえてデータから人件費の妥当性を評価する分析例を記載致します。

定性情報についてはデータで測りにくいという観点からここでは定量情報についての分析手法をご紹介します。

電子カルテ内には年代、住所、傷病名、売上、単価(診療行為、薬剤処方量など)、患者数(初診/再診、離脱率など)、担当医師名、診療時間など様々なデータがあります。これらの組み合わせにより様々な分析をすることが可能です。

非常勤医師が診た患者さんの売上、診療単価、勤務時間あたりの診療患者数は、電子カルテ内のデータから抽出することができます。

院長先生と同科目の非常勤医師を雇用する場合

院長先生の売上、単価、患者数と比較して、多い少ないを比較すれば分析できます。

単価が低い場合には、必要な処置を行っているかを確認する必要があります。

他科の非常勤医師を雇用する場合

こちらは院長先生とのデータ比較は難しいですが、例えば単価について言えば、地方厚生局のデータで各都道府県別にレセプト1件あたりの平均点数(レセプト単価:1人の患者が医院で使った1ヵ月あたりの医療費)が公開されています。

令和6年度の東京都のデータでは、内科(人工透析有以外(その他)):1,323点(診療所)※3など公開データをもとに高い低いを議論することができます。

またこの場合、2診で行うならば、売上としては純増しますので、単価は上記で確認しつつ、患者数をいかに獲得できるかが売上貢献の度合いを高めることになります。

※3関東信越厚生局 「令和6年度 東京都内の保険医療機関等の診療科別平均点数一覧表」

非常勤医師を雇用する場合、上記のようなデータを取得しながら、支払う給与に対してどれくらいクリニックに貢献しているかを見ることで給与の妥当性を推し量ることができます。

まとめ

以上、非常勤医師の雇用について説明して参りました。

非常勤医師を雇うと人件費が多くかかりますが、2診にすることで今まで獲得できなかった患者さんを獲得できたり、院長先生の時間を捻出できるなど、メリットも多くあります。

給与水準の妥当性(人件費とパフォーマンスのバランス)を常にモニタリングしながら、雇う側と雇われる側、双方が良い関係になるように適切なマネジメントを行いましょう。

最後に、筆者はクリニックの事務長業務を経験し、様々な経営指標を分析してきました。

データが散らばっていたり、意図したまとめ方がすぐにわからないなど様々な分析業務の非効率さを味わってきました。

そこで経営分析をしようにも、まず何からしたらいいかわからない方、データの前処理が面倒だと感じる方に対し、経営分析が簡易的にできるツール、メディカルボードを開発しました。

今後も使い方を開発しより良いツールにバージョンアップしていく予定ですが、少なくとも皆様の、電子カルテやレセコンのデータをエクセルにまとめたり、どのように可視化するのかを考える時間を削減したいと思い本ツールを開発しました。

是非一度使ってみてください!お問い合わせお待ち申し上げます。