売上分析に欠かせない患者数と、意外と奥が深い初診と再診について解説

開業医としてクリニックを運営していく立場になり、医師としてよい医療を提供することはもちろん重要ですが、経営者として自院の経営をしっかり分析していくことも非常に大切です。とはいえ、経営分析の経験がなければ、何をどのように分析すればよいか、わからないことも多いと思います。

そこで、そのような開業医の先生方にむけて、クリニックの事務長を経験した筆者が、効率的に経営分析を行うためにダッシュボードと呼ばれる経営の可視化ツールを開発しました。

実際に当該クリニックにも導入したことで種々データを用いて経営改善の議論がしやすくなったことや、分析するためのデータの前処理時間を削減できたことなど、様々な効果が得られました。ぜひ皆様のクリニックでも活用できたらという想いで記事を書いていきます。

本記事ではクリニック経営において基本的な指標である来院患者数、とりわけ初診数、再診数についてご説明いたします。初診・再診は意外と奥が深く、医療機関ごとで定義が異なることもあるため、一般的な内容を記載します。是非ご参考ください。

クリニックにおける売上とは

まず初めに、クリニックの売上についてですが、クリニックの売上は以下のように表せます。

クリニック売上 = 延べ患者数 × 単価 × 診療稼働日

こちらが初再診にどのようにかかわるのか、ご説明致します。

延べ患者数とは

延べ患者数とは、1つの医療機関に来院した患者さんの件数のことです。1名の患者さんが複数回来院した場合、それぞれ1件と考えることがいわゆる患者数との違いです。つまり、延べ患者数=患者数×来院頻度と言えます。

上記売上の内訳をさらに深く理解するためには、初診と再診に分けて考えるとより深い分析が可能になるため、本記事では、初診・再診について詳しくご説明いたします。

初診・再診とは

結論から申し上げますと、初診・再診の定義は、医師法・医療法等に「初診」という用語・概念はないため、決まっていません※。

※出典:厚生労働省 平成30年度 第3回オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会 資料1 「本指針上の「初診」の定義等」

ですので、上記厚労省の検討会資料にも記載している通り、個別のケースで見る必要があります。

同一医療機関」への継続的な受診のケース

  • 当該医療機関に初めて受診した場合は「初診」
  • 二度目以降であっても、新たな症状等(※1) 、疾患について受診する場合は「初診」
    ※1 ただし、既に診断されている疾患から予測された症状等を除く
  • 二度目以降に既に診断を受けた疾患について受診する場合は「初診」に該当しない(※2) 
    ※2 ただし、疾患が治癒ないし治療が途中で長期間中断した後、再度同一疾患で受診する場合は、「初診」に該当

他の医療機関で既に受診済み」のケース

  • 他の医療機関に受診し診断・処方を受けている場合であっても、当該医療機関への受診が初めての 場合は、「初診」
  • 二度目以降については、同一医療機関の場合と同様の整理
※出典:厚生労働省 平成30年度 第3回オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会 資料1 「本指針上の「初診」の定義等」

「いずれのケースにおいても、「初診」に該当するか否かは、医療機関の単位で、個々の医師がカルテ等の確認により判断することが想定される」ため、医師や医療機関ごとで定義が異なるというのが現状です。

ただ、売上を計上する上では、初診・再診の定義を明らかにすることよりも、以下の診療報酬における初診料・再診料に区分される患者さんの件数が重要ですので、その算定基準をみてみます。

診療報酬における初診料・再診料の算定基準

それでは、診療報酬の算定における初診・再診について見ていきます。

診療報酬にも初診、再診という概念がありますが、診療報酬においては「初診料」「再診料」の算定上の取扱いは定めていますが、「初診」「再診」の定義は定められていません。

ですので、算定の取り扱いとして、以下のように原則が定められています。

初診料の算定について

算定の原則
  • 特に初診料が算定できない旨の規定がある場合を除き、患者の傷病について医学的に初診と言われる診療行為があった場合に、初診料を算定する。
新たに発生した他の傷病の取扱い
  • 現に診療継続中の患者につき、新たに発生した他の傷病で初診を行った場合には、当該新たに発生した傷病について初診料は算定できない。
診療中止後、1ヶ月以上経過した場合の取扱い
  1. 患者が任意に診察を中止し、1ヶ月以上経過した後、再び同一の保険医療機関において診療を受ける場合には、その診療が同一病名又は同一症状によるものであっても、その際の診療は、初診として取り扱う。
  2. 上記1 にかかわらず、慢性疾患等明らかに同一の疾病又は負傷であると推定される場合の診療は、初診として取り扱 わない。
転医後再来の場合の取扱い
  • 診療継続中の患者が他の医療機関に転医し、数か月を経て再び以前の医療機関に診療を求めた場合においても、 治癒が推定されているときに限り、新たに初診料を算定することができる。

再診料の算定について

算定の原則
  • 再診料は、診療所又は一般病床の病床数が200床未満の病院において、再診の都度(同一日において2以上の再診があってもその都度)算定できる。
 初診料を算定できない初診の再診的取扱い
  • A傷病について診療継続中の患者が、B傷病に罹り、B傷病について初診があった場合、当該初診については、初診料は算定できないが、再診料を算定できる。
※出典:厚生労働省 平成30年度 第3回オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会 資料1 「本指針上の「初診」の定義等」

以上のように、初再診の算定と傷病の経過が密接に関連することから、医師の判断のもと適切に管理する必要があります。

クリニックの売上分析において初診・再診を分ける理由

最後に、クリニックの売上を分析する上で、初再診を分けて計上する理由についてご説明いたします。

初再診(初診料算定・再診料算定)を分けて件数を出すことができれば、
以下のように売上を表せます。

売上=延べ患者数 × 診療単価 × 診療稼働日数

  =(初診延べ患者数 × 初診診療単価 + 再診延べ患者数 × 再診診療単価) ×診療稼働日数 

単価については、2024年6月からの診療報酬改訂を受け、初診料が291点、再診料が75点と差があることや、初診の方が比較的検査、処置・処方も多くなる傾向にありますので、高いことが一般的です。ですので、売上を上げるために単価を把握する上では、初診と再診を分けて算出することが重要です。

また、売上を上げるために来院患者数を議論する際にも、
延べ患者数を初診、再診を分けて計上することによって、初診の患者数は増えているのか、減っているのか、再診はどうかを把握する必要があります。
初診患者数を増やしたい場合は、チラシやweb広告など主にクリニックの認知を高めることが必要です。

また再診患者数を増やしたい場合、院内の待ち時間を減らす、患者さんとのコミュニケーションを重要視するなどの院内の医療提供体制を整える活動や、昨今ではITツール、SNSなどを活用し、定期通院されている患者さんに様子を伺うなどの施策も有効です。

基本的な分析観点ではありますが、ご参考頂ければ幸いです。

まとめ

本記事ではクリニックの売上を構成する重要な要素である来院患者数、とりわけ初診、再診についてご説明しました。

初診、再診の定義は意外と奥が深く、医療機関ごとに異なったり、傷病の経過等、医師の判断が必要なため、明確な定義はされておりません。ですが、診療報酬を算定する上で、つまり患者さん負担や公費負担等、医療費を会計するために医療機関ごとに算定基準に沿った適切なルール化が必要です。

また売上向上を検討する上では、改善施策の種類が異なりますので、初診と再診を分けて患者数や単価を算出しておきましょう。診療に逼迫している状況において、算定の間違いが発生するのもこの初再診の算定ではないでしょうか。

是非一度自院の初診、再診の算定基準を確認し、加算間違いがないかチェックしてみてはいかがでしょうか。

弊社ではレセプトや日々のカルテや加算・算定をチェックする医療事務の業務支援も行なっています。
ぜひ一度お問合せください。

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最後に、筆者はクリニックの事務長業務を経験し、様々な経営指標を分析してきました。データが散らばっていたり、意図したまとめ方がすぐにわからないなど様々な分析業務の非効率さを味わってきました。
そこで経営分析をしようにも、まず何からしたらいいかわからない方、データの前処理が面倒だと感じる方に対し、経営分析が簡易的にできるツール、メディカルボードを開発しました。

今後も使い方を開発しより良いツールにバージョンアップしていく予定ですが、少なくとも皆様の、電子カルテやレセコンのデータをエクセルにまとめたり、どのように可視化するのかを考える時間を削減したいと思い本ツールを開発しました。
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