電子カルテ移行時の院内マニュアル作成|スタッフ定着と業務効率アップの鍵

開業医としてクリニックを運営していく立場になり、医師としてよい医療を提供することはもちろん、経営者として自院の経営をしっかり分析していくことも非常に大切です。とはいえ、経営分析の経験がなければ、どのように実施するのかわからないことも多いと思います。
そこで、クリニックの事務長を経験した筆者が、効率的に経営分析を行うためにダッシュボードと呼ばれる経営の可視化ツールを開発しました。
実際に当該クリニックにも導入したことで、種々データを用いて経営改善の議論がしやすくなったことや、分析するためのデータの前処理時間を削減できたことなど、さまざまな効果が得られました。ぜひ皆様のクリニックでも活用できたらという想いで記事を書いていきます。ご参考ください。
本記事では、電子カルテを新しく導入したい、あるいは違う電子カルテに移行したいというクリニック向けに、移行における課題について解説したいと思います。電子カルテの導入や移行は、クリニックにとって大きな決断の一つです。
特に「移行」には、現場業務への影響、データ移行のトラブル、スタッフ教育など、さまざまな課題がつきまといます。そこで、スムーズに電子カルテ移行を進めるための業務フローと注意点について、現役事務長がクリニック運営の実務経験をもとに解説します。

株式会社パドルシップ 代表取締役
京都大学卒、京都大学大学院修了
総合電機の技術職、日系コンサルティング会社で新事業企画、ベンチャー支援等の経験を経て、2023年に株式会社パドルシップを設立。
江戸川区のクリニック立上や戦略立案、集患を経験し、現在も経営に参画。

なぜ今、電子カルテの移行が必要なのか?
医療DXの推進に伴い、2025年から段階的に「電子カルテの標準化・義務化」が進んでいます。クリニックでも例外ではなく、紙カルテや旧型電子カルテからの「移行」が現実的な課題となってきました。
「まだ紙カルテを使っている」「昔導入した電子カルテが使いづらい」
そんなクリニックこそ、今が見直しと移行のチャンスです。
本記事では、電子カルテ移行を検討している開業医・事務長の方向けに、以下の内容を解説します:
- 電子カルテ移行の流れ
- 電子カルテ移行時の院内マニュアル作成
電子カルテ移行の全体フロー|5つのステップ
電子カルテ移行の全体のフローは以下の5つのステップに分けられます。
ステップ1|現状分析と要件整理
- 現在のカルテ運用・業務フローを洗い出す
- 問題点(記録漏れ、検索性の悪さ、二重入力など)を明確化
- 移行後に解決したい課題を整理(例:在宅支援、データ連携、予約連動)
ステップ2|ベンダー選定と契約
- 導入目的と運用フローに合った電子カルテを比較
- レセコン一体型か分離型か、クラウド型かオンプレミス型か
- 見積・機能比較・デモ体験を行い、最終決定
- 契約内容に「サポート体制」「データ移行対応」も含めることが重要
ステップ3|データ移行の計画立案と準備
- 紙カルテのスキャン範囲、旧電子カルテからのデータ抽出方法を検討
- 移行対象データの選定(直近3年の診療データなど)
- 移行スケジュールの設計(移行中も診療継続できる体制構築)
ステップ4|業務フローと操作マニュアルの整備
- 新カルテに対応した受付~診察~会計までの業務導線を再設計
- スタッフへの事前説明・操作教育
- 院内マニュアルの作成(初診登録、処方入力、紹介状作成など)
ステップ5|テスト運用と本稼働
- 本格導入前に「テスト期間」を設けて動作確認
- 診療データの正確性・印刷物のチェック
- 本稼働後もサポート窓口を活用し、初期トラブルを即時解決
電子カルテ移行時の院内マニュアル作成
本記事では特に院内のトラブルや移行のおっくうさの根源である移行時の院内業務フローに着目して解説したいと思います。
電子カルテをスムーズに運用するためには、「全スタッフが迷わず操作できる」状態を作ることが重要です。どれだけ優れたシステムでも、スタッフが使いこなせなければ業務効率は下がり、現場が混乱します。
そこで鍵となるのが「院内マニュアル」の整備です。
以下のポイントを押さえて、実務で活用できるマニュアルを作成しましょう。
①マニュアル作成の目的は「標準化と安心感」
以下に気をつけることでマニュアルの目的を見失わずに作成することができます。
- 属人的な対応の排除:人によって操作や対応に差が出ないように
- 新人スタッフへの教育負担軽減:引き継ぎがスムーズに
- トラブル発生時の参照資料:操作に困ったときに即確認できる
- ベンダー問い合わせの前に自院で解決:対応時間を短縮
②マニュアルに盛り込むべき具体的な項目例
マニュアルに盛り込むべき内容は以下です。トピックだけになりますが参考にしてください。
業務カテゴリ | 内容(例) |
受付業務 | ・新患登録の方法・保険証スキャンの手順・来院履歴の確認方法 |
診療補助 | ・診療録の呼び出し・検査オーダーの入力・処方せんの作成 |
会計・レセプト | ・会計画面の操作・レセプト確認・修正方法・返戻対応の流れ |
医師向け | ・病名入力ルール・定型文の登録と使用・紹介状テンプレートの使い方 |
書類・印刷物 | ・紹介状印刷手順・診断書出力と修正・印刷トラブル時の対応 |
データ管理 | ・バックアップの確認・ログイン・パスワード管理・端末トラブル対応手順 |
③作成形式のおすすめ
作成する際には、作ったものが後々使いやすいように、検索性、共有しやすさ、見やすさを意識しデジタル化することが重要です。
- 紙とデジタル両方で整備:紙のバインダー+GoogleドキュメントやPDFで共有
- 画面キャプチャ付きで視覚的に:操作手順は「文字+画像」で理解度を上げる
- マニュアル専用フォルダを設置:受付PCや共有のSNSに「マニュアル」フォルダを固定する
④マニュアル更新のタイミングと担当者
マニュアルは作って終わりではなく、運用が目的です。適切な更新タイミングを図り、運用がスムーズに行えるようにすることが重要です。その際にマニュアルの担当者を決めておくと、スタッフの責任感の醸成や育成にも寄与できるかと思います。
- 更新タイミング例
- システムアップデート時
- トラブルや改善提案があったとき
- 業務フローに変更があったとき
- システムアップデート時
- 更新担当の明確化
- 医療事務主任、または電子カルテ担当スタッフを「マニュアル管理者」に任命する
- 看護師業務の窓口担当者も決めておくとスムーズに運用ができる
⑤スタッフ全員に周知・研修を
すべてのスタッフが参加し、安心して業務ができるようにすることが重要です。
そのためには、丁寧に説明することが必要になります。以下は周知の例です。
- 朝礼やミーティングで周知
- 新人研修では「マニュアルを使った演習」
- スタッフからのフィードバックで運用の改善を繰り返す
📊 マニュアル整備と経営分析ツールの連携がもたらすメリット
電子カルテ移行時に業務フローを標準化し、マニュアルで明文化することで、「誰が・いつ・どのように」入力したかというデータの精度が飛躍的に向上します。
この「正確で整理されたデータ」は、経営ダッシュボードによる可視化・分析の質を高める上でも非常に重要です。
たとえば以下のような効果が期待できます:
- 新患登録の漏れがなくなり、「患者数推移」や「リピート率」の分析が正確に
- 診療録やレセプト入力が統一され、「診療単価」や「返戻率」なども数値の信頼性が向上
- 受付や会計の入力が揃えば、「待ち時間」や「滞在時間」の分析も可能に
つまり、「使えるマニュアル」は、“使えるデータ”の入り口でもあるのです。
経営分析ツールとの連携を前提としたマニュアル作成は、単なる「業務効率化」だけでなく、「見える経営」への第一歩になります。
まとめ|「使えるマニュアル」は移行成功の支えに
電子カルテの導入・移行は、業務そのものを見直す絶好の機会です。「マニュアル整備」は単なるドキュメントではなく、スタッフの安心感と業務効率、そして経営可視化のためのデータ整備にもつながる重要なプロセスです。
現場で実際に使われることを前提に、「シンプルで、すぐ見返せる」マニュアル作成を進めましょう。
導入支援・業務改善のご相談も承っています
私たちは、クリニックに特化した電子カルテ移行支援や、データ活用支援(経営のダッシュボード化)を行っています。
「うちは紙カルテだけど大丈夫?」「レセコンと連携したい」など、
些細なことでもお気軽にご相談ください。
◆電子カルテに移行したら、データを自動で取得・可視化できるツールもある
クリニックでは、院長自身が経営・診療・マネジメントのすべてを担っているケースが多く、「分析にまで手が回らない」というのが現実です。
そこで注目されているのが、電子カルテの経営可視化ツール(ダッシュボード化)です。
紙カルテでは実現できなかった経営データの自動収集と可視化が可能となります。
- 毎日または月次で更新
- 前処理不要で即分析可能
- 経営判断に使えるグラフ・指標が自動出力
筆者はクリニックの事務長業務を経験し、様々な経営指標を分析してきました。
そのなかで、データが散らばっていたり、まとめ方がわかりづらい非効率さを痛感してきました。
そこで、経営分析が初めての方でも簡単に使えるダッシュボードツールを開発しました。
今後も使い方をアップデートしていく予定ですが、まずはエクセルの整理やグラフ作成にかかる“無駄な時間”を削減できるツールとして、皆様のお役に立てれば幸いです。
ぜひ一度ご相談ください!