クリニックにおけるデータ分析とデータ活用可能性

開業医としてクリニックを運営していく立場になり、医師としてよい医療を提供することはもちろん重要ですが、経営者として自院の経営をしっかり分析していくことも非常に大切です。

とはいえ、経営分析の経験がなければ、何をどのように分析すればよいか、わからないことも多いと思います。

そこで、そのような開業医の先生方にむけて、クリニックの事務長を経験した筆者が、効率的に経営分析を行うためにダッシュボードと呼ばれる経営の可視化ツールを開発しました。

実際に当該クリニックにも導入したことで種々データを用いて経営改善の議論がしやすくなったことや、分析するためのデータの前処理時間を削減できたことなど、様々な効果が得られました。ぜひ皆様のクリニックでも活用できたらという想いで記事を書いていきます。
ご参考ください。

医療業界のDXへの取組状況

社会的にDX(Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション))が注目されてから久しいですが、まだまだ医療業界のDXへの取組状況は他業界と比較して、芳しくないと言われています。※1

※1 出典:総務省 令和3年 情報通信白書

図表1-2-4-3 デジタル・トランスフォーメーションの取組状況(日本:業種別)

もちろん医療業界そのものとしてDXの難易度が高い可能性はありますが、「紙を電子化する」「手作業を自動化する」などだけがDXではないにせよ、デジタルやデータの活用可能性を模索する活動は医療業界においても必要だと考えます。

次項以降では、データ分析とは何か、クリニックにおけるデータ、とりわけ電子カルテにあるデータの活用可能性について述べたいと思います。

データ分析とは

まずは、データの活用可能性を考える上で必須になる、データ分析について記載します。

一般的にビジネスにおけるデータ分析とは、
"データ(情報)を収集、整理し、分析することで有用な示唆を導き出し、それを関係者と共有することで、主に経営上の意思決定をサポートすること"
と言われています。つまり目的は意思決定のサポートです。

では、クリニックにおける"データ"とは何でしょうか。

クリニックには、会計や請求書、レセプト、給与、勤怠、問診票や予約など様々な"データ"があります。

アナログなデータも含めると際限なく考えられますが、
本記事では、ある程度固まったデジタルデータをもつシステムとして"電子カルテ"について考えてみます。

電子カルテとは

電子カルテとは、従来使用されていた紙カルテを電子的なデータに置き換え、電子情報としてカルテを記録・管理するシステムのことです。

問診の内容や検査内容・結果、処方薬、算定加算、会計情報など患者さんに関わる様々な診療情報が記録されており、それが電子化されて日々溜まっていきます。

これらデータは院にとって貴重なものであり、電子化されて持っている状態は、他院と差別化を図る上で非常に重要なものであるという認識を持つ必要があります。

電子カルテの普及率

電子カルテの現在の普及率は、どれぐらいでしょうか。

2020年の電子カルテシステムの一般診療所における導入数は51,199施設(49.9%)になっています。※2。
徐々に伸びておりますが、約半数は紙カルテで運用を続けています。
※2厚労省 「医療分野の情報化の推進について」電子カルテシステム等の普及状況の推移

まだ全ての診療所で電子カルテが普及しているわけではないですが、新規開業される先生方で電子カルテを導入しない先生はほとんどいないため、今後さらに普及していくことは間違いありません。

見方を変えると、現在電子カルテを導入しているクリニックは、様々なデータを保有し、年々溜まっていくというアドバンテージを持っているということです。

ですので、次項ではその"データを活用する可能性"についてご説明致します。

電子カルテのデータの活用可能性

電子カルテには、先述の通り、診療に係るデータがまとまって存在します。

ここでは、外来保険診療の売上を伸ばすという経営課題に対してデータのどのような活用可能性があるかについて述べたいと思います。

言わずもがなですが、保険診療は診療行為に対し診療点数が定められているため、通常の事業とは異なり、個別の単価を自院で決めることはできません。つまり、売上を伸ばすためには下記のいずれかになります。

①診療点数が高くなる可能性のある患者さんを診る
②患者数を増やす

①診療単価について

診療点数の高い疾患は検査や処置が多い傾向にありますが、売上目的で検査や処置を増やすことはできません。また1患者さんあたりに時間がかかったり、材料費が高かったりと費用側を鑑みても、診療点数の高い疾患を見極めるには慎重な議論が必要です。

電子カルテ内の患者さんの住所データ、疾患別の診療単価データおよび、こちらは電子カルテ内のデータではありませんが、年代別の周辺人口と傷病率が厚労省等のデータからわかりますので、あとどのくらいの売上の伸びしろがあるかを測定することは可能です。

②患者数について

患者数は初診数と再診数に分けることができます。

初診の患者さんを増やすには、チラシやWebなどによって、クリニックの認知を高めることが重要です。そこで重要になるのが、現状の患者さんがどこから来院されているか、という情報です。電子カルテには患者さんの住所データがありますので、そちらを参照することが効果的です。周辺の何丁目から患者さんが来ているのか、また来ていないのか、患者さんの周辺人口から現在のシェアを割り出しプロットするとどこにチラシを配れば効果的かがわかります。

次に再診数についてです。1患者さんあたりの再診数を増やすことを願うのは医療の観点においては違うと思いますので、再診数は増やすというよりは、そもそもの再診数が見込める疾患を獲得するか、あるいは減らさないことを目標に置いた方が良いと考えております。

減らさないという観点においては、”離脱率”という考え方が重要です。

生活習慣病などの慢性疾患患者さんは定期的に通院が必要で中長期的な治療が必要です。例えば3ヶ月おきに脂質異常症で通院されている方が4ヶ月経っても来なくなったなど、いわゆる”離脱”をモニタリングしておくことは重要です。最近では患者さんのメールアドレスやLINEなど連絡先を知っている場合も多いですので、定期通院を示唆するなど行動変容を促すことが可能です。

この際に必要なデータは患者さんの受診履歴です。直近複数回の受診間隔のデータを活用し、その間隔から逸脱した患者さんをリスト化することも可能です。是非ご参考ください。

まとめ

クリニックにおけるデータを保有している価値の一端として、電子カルテ内のデータ活用の可能性について述べました。

上記含めて電子カルテ内には年代、住所、傷病名、売上、単価(診療行為、薬剤処方量など)、患者数(初診/再診、離脱率など)、担当医師名、診療時間など様々なデータがあります。これらの組み合わせにより様々な分析をすることが可能です。

データを保有する価値やアドバンテージを活かすためにも是非活用の可能性を模索されてはいかがでしょうか。

最後に、筆者はクリニックの事務長業務を経験し、様々な経営指標を分析してきました。

データが散らばっていたり、意図したまとめ方がすぐにわからないなど様々な分析業務の非効率さを味わってきました。

そこで経営分析をしようにも、まず何からしたらいいかわからない方、データの前処理が面倒だと感じる方に対し、経営分析が簡易的にできるツール、メディカルボードを開発しました。

今後も使い方を開発しより良いツールにバージョンアップしていく予定ですが、少なくとも皆様の、電子カルテやレセコンのデータをエクセルにまとめたり、どのように可視化するのかを考える時間を削減したいと思い本ツールを開発しました。

是非一度使ってみてください!お問い合わせお待ち申し上げます。