訪問診療と在宅医療の違いとは?加算・レセプト対応を詳しく解説

「訪問診療」と「在宅医療」、どちらも似た意味で使われますが、診療報酬やレセプトの観点では明確な違いがあります。この違いを理解せずに運用すると、算定ミスや返戻の原因になり、収益に直結するリスクがあります。
本記事では、
- 訪問診療と在宅医療の定義と違い
- レセプト業務における重要な注意点
- 返戻リスクを減らす実務対策
を解説し、業務効率化のポイントも紹介します。

株式会社パドルシップ 代表取締役
京都大学卒、京都大学大学院修了
総合電機の技術職、日系コンサルティング会社で新事業企画、ベンチャー支援等の経験を経て、2023年に株式会社パドルシップを設立。
江戸川区のクリニック立上や戦略立案、集患を経験し、現在も経営に参画。

1. 訪問診療と在宅医療の違いとは?
「訪問診療」と「在宅医療」は、似ているようで異なる概念です。
訪問診療は医師によるサービスを指すのに対し、在宅医療は医療・看護・薬剤管理など、複数職種が連携する包括的な仕組みを意味します。
この違いを正しく理解することは、診療報酬算定やレセプト作成の精度を高め、返戻リスクを防ぐうえで重要です。
まず、用語の意味を整理しましょう。
訪問診療とは?
医師が患者の居宅や施設を計画的・定期的に訪問して診療を行うことを指します。
外来に通院できない患者に対して、診療計画に基づいて定期的に実施する医師の訪問診療が該当します。
在宅医療とは?
在宅医療は、訪問診療を含む自宅や施設で受ける医療サービス全体を指します。
医師の訪問診療に加え、訪問看護や訪問薬剤管理指導、在宅リハビリなど、複数の職種が関与する医療提供形態です。
2. 訪問診療と在宅医療の違いを比較
要するに、訪問診療は在宅医療に包含されている概念ということです。違いをまとめると以下です。
制度・レセプト上の違い
項目 | 訪問診療 | 在宅医療 |
定義 | 医師が計画的に患者宅や施設を訪問し、診療を行う行為 | 自宅や施設で受ける医療サービス全体。医師+看護師+薬剤師など多職種が関与 |
対象となるサービス | 医師の診療(診察・処方・管理) | 訪問診療+訪問看護+薬剤管理+在宅リハビリなど |
主な診療報酬項目 | 在宅患者訪問診療料、在宅時医学総合管理料(在総管)、緊急時加算など | 訪問看護指示料、訪問薬剤管理指導料、在宅酸素療法料など |
施設基準の必要性 | 在宅療養支援診療所(在支診)や強化型在支診の届出が必要(在総管算定の条件) | 訪問看護ステーションなど、各サービス提供機関の基準・届出が必要 |
主な関与職種 | 医師 | 医師・看護師・薬剤師・ケアマネジャー・リハビリ職など |
レセプトでの注意点 | 訪問回数・時間、加算の算定要件、同一建物患者数の確認 | 医師・看護・薬剤の記録整合性、指示書の有無、包括算定ルールの確認 |
返戻リスクが高い場面 | 在支診届出なしで在総管算定、特別管理加算の要件不足 | 訪問看護指示書未発行、薬剤指導記録不備、他職種連携の記録漏れ |
3. レセプト業務における影響
ここでは、具体的にどのような影響があるのかを解説します。
① 訪問診療特有の算定ルールとリスク
訪問診療は、医師の訪問行為に対して算定される点数が中心です。
主な診療報酬項目は以下です:
- 在宅患者訪問診療料(1回ごとの診療)
- 在宅時医学総合管理料(在総管)
- 特別管理加算
- ターミナルケア加算
- 夜間・早朝・深夜訪問加算
- 同一建物居住者に関する減算
レセプト業務でのポイント
- 訪問時間帯の記録漏れ → 夜間・深夜加算が請求できない
- 同一建物患者数の誤認 → 減算せずに過大請求 → 返戻リスク
- 在総管算定に必要な施設基準(在支診)の届出忘れ → 過誤請求で返還対象
② 在宅医療全体で必要な管理と調整
在宅医療は、医師だけでなく、訪問看護・薬剤管理・リハビリなど多職種のサービスを含むため、連携書類とレセプト整合性の確認が不可欠です。
代表的な請求項目:
- 訪問看護指示料
- 訪問薬剤管理指導料
- 在宅酸素療法料
- 多職種カンファレンス加算
レセプト業務でのポイント
- 訪問看護指示書の未発行・控え保存漏れ → 訪問看護指示料の返戻
- 薬剤管理指導の記録不備 → 算定不可
- カンファレンス記録の未保存 → 加算返戻
- 異なる事業所との請求重複 → 審査支払機関で返戻
③ 属人化と業務負担の増加
訪問診療と在宅医療を併用するクリニックでは、以下の要因で業務が煩雑化します
- 加算や施設基準の違いを把握できるスタッフが限られる
- 医師・訪問看護・薬局との情報連携に時間がかかる
- 訪問スケジュールと請求内容の突合に工数がかかる
結果、レセプト業務が属人化しやすく、担当者の退職で業務停止リスクが発生します。
4. よくある返戻原因と対策
訪問診療や在宅医療のレセプト請求では、加算ルールや施設基準、書類管理の複雑さから、返戻(差し戻し)が発生しやすいのが実態です。
ここでは、現場で頻発する返戻原因TOP5と、それを防ぐための実務的な対策を解説します。
① 加算の算定要件を満たしていない
原因
- 在宅時医学総合管理料(在総管)を算定しているが、「在宅療養支援診療所(在支診)」の届出が未実施。
- 特別管理加算(CVポート・在宅酸素等)対象患者に対して、定期訪問や記録が不足。
- ターミナルケア加算で、看取り時の診療記録・家族への対応記録が未保存。
対策
- 届出状況と算定可否を毎月チェック
- Excelまたはクラウド台帳で「届出済み施設基準」「算定対象加算」を紐付け管理。
- Excelまたはクラウド台帳で「届出済み施設基準」「算定対象加算」を紐付け管理。
- 対象患者の管理リストを作成
- 在総管対象・特別管理対象を月ごとにリスト化。
- 在総管対象・特別管理対象を月ごとにリスト化。
- 算定ルールのマニュアル化+定期アップデート
- 診療報酬改定に合わせて、院内で共有。
- 診療報酬改定に合わせて、院内で共有。
② 同一建物居住者の扱いミス
原因
- サ高住やグループホームでの訪問時、同一建物に複数患者がいるにもかかわらず、減算処理を忘れて請求。
- 「2人目以降の診療料を逓減」するルールを理解していないスタッフによる誤請求。
対策
- 施設別の居住者リストを作成し、訪問予定と紐付け
- レセプト入力時に「同一建物フラグ」を自動表示できるシステムの導入。
- レセプト入力時に「同一建物フラグ」を自動表示できるシステムの導入。
- 訪問スケジュール管理を一元化
- Excelや電子カルテで施設単位の訪問日程と患者リストを連動。
- Excelや電子カルテで施設単位の訪問日程と患者リストを連動。
③ 訪問時間・日付の不一致
原因
- 夜間・早朝・深夜加算を算定したが、カルテの訪問時間が記録漏れ。
- 電話指示や手書き管理により、訪問日が請求データと一致していない。
対策
- 訪問直後の電子入力を徹底
- 医師または同行スタッフが訪問後すぐに時間を入力。
- 医師または同行スタッフが訪問後すぐに時間を入力。
- カルテとレセプトソフトのデータ突合
- 月末に「訪問記録 vs 請求データ」の整合性を確認するチェックリストを運用。
- 月末に「訪問記録 vs 請求データ」の整合性を確認するチェックリストを運用。
④ 書類不備(看護指示書・計画書・カンファレンス記録)
原因
- 訪問看護指示料を算定しているが、指示書控えが保存されていない。
- 在宅療養計画書やカンファレンス記録が未作成、または署名漏れ。
対策
- 必要書類の電子化と共有
- PDF化し、クラウドで保存。
- PDF化し、クラウドで保存。
- 算定項目別の「必要書類リスト」を作成
- 在宅時医学総合管理料なら「計画書・同意書」、ターミナルケア加算なら「看取り記録・家族対応記録」など。
- 在宅時医学総合管理料なら「計画書・同意書」、ターミナルケア加算なら「看取り記録・家族対応記録」など。
- 月次監査の実施
- 月末に「記録完備率」を確認し、未達成項目は即時修正。
- 月末に「記録完備率」を確認し、未達成項目は即時修正。
⑤ 重複請求(医師・看護・薬剤)
原因
- 訪問診療と訪問看護で、同日に管理料を重複算定。
- 医師・看護・薬剤の記録がバラバラで、請求調整ができていない。
対策
- レセプト業務の一元管理
- 医師・看護・薬局の訪問スケジュールと請求データを同一システムで管理。
- 医師・看護・薬局の訪問スケジュールと請求データを同一システムで管理。
- ダブルチェック体制
- 月次で第三者チェックを入れるか、外部のレセプト点検サービスを利用。
5. 訪問診療・在宅医療に強いレセプト体制を作るには
訪問診療や在宅医療は、外来診療と比較して レセプト業務の複雑性が高い ため、以下の3つのポイントを押さえた体制構築が不可欠です。
① 算定ルール・加算要件の最新情報を常にアップデート
訪問診療・在宅医療のレセプト請求では、以下のように複雑な算定ルールが存在します。
- 訪問診療特有の加算
在宅時医学総合管理料(在総管)、特別管理加算、ターミナルケア加算、夜間・深夜訪問加算など。 - 在宅医療特有の包括算定や連携要件
訪問看護指示料、訪問薬剤管理指導料、在宅療養指導管理料など。
課題:
診療報酬改定やQ&Aでの解釈変更により、算定要件は頻繁に変わります。更新を怠ると、 加算漏れや過誤請求 のリスクが発生。
対応策:
- 診療報酬改定時に必ずマニュアルをアップデート。
- 院内の「算定ルール集」をクラウド管理し、スタッフ全員で共有。
- 外部セミナーや専門ニュースを定期的に確認。
② 書類・実績の整合性を担保する仕組みを構築
訪問診療・在宅医療では、レセプトと現場記録の整合性が極めて重要です。
よくある不備は次の通りです:
- 訪問記録とレセプトの訪問日が一致していない
- 看護指示書・在宅療養計画書の未発行
- ターミナルケア加算の家族支援記録が不足
対応策:
- 電子カルテとレセプトソフトを連携し、訪問実績をリアルタイムで反映。
- 必要書類(看護指示書・計画書・議事録など)はPDFでクラウド共有。
- 月次で「加算別必須書類チェックリスト」を運用し、不備を未然に防止。
③ 属人化を防ぐための“仕組み化”
訪問診療・在宅医療のレセプトは専門性が高く、担当者のスキルに依存しやすい領域です。
一人に依存する構造=退職時に業務停止リスク大。
対応策:
- 業務フローを文書化(マニュアル・チェックリスト)。
- Googleスプレッドシートやクラウドで「届出管理台帳」「加算対象者リスト」を共有。
- 月1回、レセプト点検の進捗会議を実施。
- 第三者チェックを導入(外部レセプト点検サービスを活用)。
④ 外部専門サービスの活用
人材不足や専門性確保が難しい場合、外注を取り入れることが最も効果的です。
外注することで次の効果があります。
- 採用コスト・教育コストゼロ
- 専門スタッフによる最新ルール対応
- 算定漏れ・返戻のリスク低減
弊社では訪問診療に特化したレセプト代行サービスのプランもございます。15年以上の経験のあるスタッフが算定、点検を支援致しますので、ぜひご検討ください
まとめ|在宅医療と訪問診療の違いを理解し、返戻リスクを防ぐ
在宅医療は包括的な医療管理、訪問診療は医師による定期診療が中心という明確な違いがあります。
この違いは、レセプト算定にも直結し、在総管や特別管理加算など、施設基準や要件を正しく理解しないと返戻・査定のリスクが高まります。
クリニック経営を安定させるには、
「違いを踏まえた請求体制」と「算定・加算のミス防止」が必須です。
メディサポでは、訪問診療のレセプト点検と算定支援を15年以上の経験のある専門スタッフがサポートします。
算定漏れ・返戻を未然に防ぎ、診療に専念できる環境を実現します。
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