クリニック開業において失敗や後悔しないためにできること

現在勤務医の方でクリニック開業を検討されている先生も多いと思います。
開業医の開業時の平均年齢は41歳※1であり、医療に対する十分な経験や経営に対する知識を深められてから開業されるケースが多いようです。
開業される先生方は、医療に対して十分なスキルや知識を持っていて、クリニックを開業することに自信がある方も多く、大きな不安はないかも知れません。しかし、診療以外の実務については経験したことがあまりなく、いざクリニックを開業し、ご自身で経営することを想像すると不安に感じられる先生も多いのではないでしょうか?
そこで、本記事では、クリニック開業をするにあたって、失敗や後悔をしてしまうパターンを紹介しつつ、どうすればご自身の理想とするクリニックをスムーズに開業することができるのかについて、丁寧に解説をしています。
※1 出典:公益社団法人日本医師会 2009年9月30日
「2009年開業動機と開業医(開設者)の実情に関するアンケート調査」

1.はじめに、開業医と勤務医の違いについて

開業医と勤務医の最も大きな違いは、経営に責任を持っているか否かです。マネジメントの基本は「権限」「役割」「責任」ですが、開業医は当然ながら最高責任者であるため、全ての権限を持っています。スタッフやクリニック運営を管理し、すべての責任を持ちます。
一方で勤務医は、クリニックや病院のスタッフとして一定の権限や管理の役割を持ちますが、責任は自身の業務や管理の範囲内に限られます。ですので、開業医はすべての意思決定に責任を持つことが一番重要な違いです。
開業準備をしている最中でも、意思決定項目の多さに驚かれることでしょう。トラブルが発生したときにも、開業医は意思決定を素早く求められ、その意思決定項目には自身が経験したことがない事も含まれます。
「知らない」、「わからないから自分に責任はない」という言い訳は通用しません。つまるところ、開業医になるということは、責任を持つ”覚悟”が重要と言えるでしょう。

2.クリニック開業のメリット・デメリット

開業医には経営の責任を持つ覚悟が必要ということを述べましたが、そのような厳しい話だけではありません。その責任をもつ代わりに、開業医にはメリットもたくさんあります。そこでここでは、クリニック開業のメリット、デメリットについて記載致します。

2-1.開業動機と実情

開業動機を医師に聞いた日本医師会のアンケート結果※2があります。そこには「理想の医療の追求」「将来に限界を感じた」「経営も含めたやり甲斐」などポジティブな理由から、「精神的ストレスに疲弊」といった、ネガティブな理由まで示されています。また、2023年に実施されたアンケート結果※3でもほぼ同様の結果が得られています。直近15年程度で開業動機にあまり変化がないことを示しています。

※2 出典:公益社団法人日本医師会 2009年9月30日
「2009年開業動機と開業医(開設者)の実情に関するアンケート調査」


※3 出典:本アンケート内容は株式会社メディカル・プリンシプル社調べ
勤務医に開業・事業承継への関心を聞く ハードルは経営や患者確保への不安 ~「開業・事業承継」アンケート

【アンケートの概要】

調査期間:2023年6月8日
対象:「民間医局」会員の医師
回答者数:322人

また、日本医師会のアンケート※2には、実際に開業してからの業務負担についての回答も示されています。診療等の実務と管理業務に分けて集計されており、開業前後でその負担の増減をみると、診療面の負担よりも「スタッフの採用」「機器等のメンテナンス」「スタッフの教育・育成」など、経営面の負担の増加が顕著にみられます。
<勤務医時代の負担・開業後の負担 -診療面->

<勤務医時代の負担・開業後の負担 -管理面->

※2 出典:公益社団法人日本医師会 2009年9月30日
「2009年開業動機と開業医(開設者)の実情に関するアンケート調査」

2-2.クリニック開業のメリット・デメリット

先ほど紹介した株式会社メディカル・プリンシプル社のアンケートでは、開業のデメリットについても集計されています。
「経営を維持できるかどうか不安」「開業資金を借り入れることへの不安」「院長・経営者としての精神的なストレス」など、経営者としてのリスクを負うことへの不安がデメリットであるという結果になっています。

これらの結果をまとめると、クリニック開業には、以下のメリット・デメリットがあると考えられます。
一言でいうと、自由であるがゆえに責任や不安が伴うということです。

メリットデメリット
・理想の医療を追求できる
・やりがいがある
・収入も得られる
・診療時間を決められる
・自分で決められる
・責任が重い
・開業時の借入への不安
・診療以外の経営・管理業務の負荷が増える

3.クリニック開業でよくある失敗・後悔のパターン

こちらの記事でも触れましたが、クリニック開業において重要なポイントは「想い」「場所」「ヒト」です。

クリニック開業におけるコンセプトとは?項目やポイントを解説

それぞれのポイントに則して説明します

3-1.「想い」が整理できておらず失敗・後悔するパターン

クリニックを開業すると決めたら、まず、なぜ開業するのか、どのようなクリニックにしたいか、または、したくないか、を整理するべきと言えます。
それはクリニックのコンセプトとなりますが、そのコンセプトがうまく整理できていないと、「こんなはずではなかった…」と後悔してしまうことが多いです。

よくある失敗事例

例1)より多くの若者や子供の疾患を診たいから自分でクリニックを開業したが、、開業地周辺の人口分布として中高年や高齢者の多い地域を選んでしまった結果、患者数は増加したものの、自分の診たいはずだった若年層の患者さんが来院しない

例2)レントゲンやCTといった高額な医療機器を、収益の検討を十分にせずに開業当初から入れてしまい、結局高額な医療機器の使用頻度が少ないために、自分の可処分所得やスタッフの給与などにお金をかけられない

自身の行いたい診療がうまく整理できていないために、意図した患者さんを診れない、不要な投資をしてしまい必要な投資ができずリターンが得られなくなるなど、自分のモチベーションに寄与する失敗や後悔が生じてしまうのがこのパターンの特徴です。

3-2.「場所」選びで失敗・後悔するパターン

「場所」に関しては、多くの先生が成否を決めると言っており、開業地選びが非常に重要であることは言うまでもありません。
診療圏分析や競合分析など、一通りの市場調査を行うことは必須です。先生ご自身で開業予定地を訪れたりするなど、開業地を慎重に選ぶ先生は多いです。
クリニックの開業地は、患者さんにとって便利な場所、行きやすい場所であることが重要です。必ずしも駅周辺を選ぶ必要はなく、郊外ならば近隣住民がよく利用する道路沿いで、駐車場があり、目立つ場所を選びましょう。またビルなら上下階のテナント、郊外ならば隣近所の店舗といった、周辺の雰囲気も重要ということです。場所の選定に関して検討不足であると後々失敗や後悔をしてしまいます。

よくある失敗事例

例1)駅前の好立地を見つけ、クリニックを開業したが、周辺人口は想像していたよりも少なく、まわりに競合も多いため集患しづらい。賃料の固定費もかさみ利益も得られにくい。

例2)婦人科クリニックの開業で患者さんの利便性を考え、雑居ビルの1階テナントを契約したが、患者さんや疾患によっては人目を気にするため、ターゲット層が来院しない。

患者さんの利便性や競合との差分に直結しますので、集患面や売上・固定費など、マーケティングやファイナンス上の失敗・後悔が生じてしまうのが特徴です。

3-3.「ヒト」選びで失敗・後悔するパターン

「ヒト」に関しては、開業された先生の多くが常に悩まれています。開業時に必要なスタッフ数や、開業後時のスタッフの離脱など、当初の想定との齟齬が生まれやすく、先読みすることが非常に難しいため、後々失敗や後悔が生まれやすいです。

よくある失敗事例

例1)予想以上に患者さんの数が増えたためにオペレーションが回らず、スタッフの負荷が増え、辞めてしまった

例2)採用時に入念に審査し、スキルや向上心の高いスタッフを数多く採用することができたが、スタッフ同士のバッティングやすれ違いが起こり、スタッフの大半が辞めてしまった

急な対応を求められたり、人と人の組み合わせなど、日々のオペレーション面での失敗や後悔が生じてしまうのが特徴です。

4.失敗や後悔を避けるためにできること

最後に、クリニック開業における失敗や後悔を避けるために前もってできることを記載します。先述の通り、よくあるパターンとしては「モチベーション」「マーケティング」「オペレーション」に影響を与える失敗や後悔が生じやすいということです。つまり、それら3点を意識し、避けられるようにすることが重要です。

<モチベーション面>

一言でいうと、先生自身が覚悟を決めることです。
言うは易くですが、覚悟を持つためにも、何のために開業するのか、成し遂げたいことを言語化し整理しておくことが必要です。
お金を稼ぐため、家族との時間を増やすため、理想の医療を実現するためなど自分自身がクリニック開業をするモチベーションの根源を探り、ポジティブなブレないコンセプトを定義することで、覚悟も自ずと決まるようになります。是非内省することをおすすめします。

<マーケティング面>

一言でいうと、他と違うことを発信することです。
医療行為はサービスではないですが、患者さんから見ると数あるクリニックから選ぶ対象ですので、サービスとして捉えざるを得ない部分はあります。ですので、基本的に考えなければならないのは、立地や利便性などのクリニックの魅力だけに留まらず、開業場所において、他院とどう差別化するかが重要です。
例えば、夜間まで診療しているクリニックが周辺になければ夜間診療は差別化要素になりますし、先生の診療技術を患者さんでも理解できる形で発信すればそれも要素になります。また他院では持っていない医療機器などによる施術や検査も差別化の一つになります。
開業エリアを選定する際には、差別化がしやすそうなエリアを探すことも重要な論点です。自身の技術や人的あるいは設備面のリソース、地域のニーズから差別化要素を抽出し、自身が対応できる要素を設定し発信するようにしましょう。

<オペレーション面>

一言でいうと、先生が行うことと、他者に任せることを明確に分けることです。
組織マネジメントの基本的な考え方は、「役割」「権限」「責任」を明確にすることです。クリニック運営は、看護師や技師、事務など多職種、異なる専門性を持つスタッフで組成されているため、組織マネジメントが難しいです。そのため、横ぐし的に組織を見る目線が重要で、その役割を先生自身が行うのか、または、管理者を据え置き、担ってもらうのか、その線引きが非常に重要です。
スタッフから院長に対してざっくばらんに日々の課題や悩みを打ち明けられる環境や仕組みをどのように作るか、そこも重要な論点であることを開業前から認識していると失敗や後悔を避けられます。

5.まとめ

現在勤務医をされていて、開業を検討されている先生は、クリニック開業には失敗のリスクや後悔するのではないかという不安を抱えてらっしゃる方も多いのではないでしょうか。勤務医、開業医それぞれにメリットと/デメリットがあり、一概に今後の進むべき方向に解はないと存じます。
本記事では開業を選ばれた先生に対し、開業においてよくある失敗・後悔のパターン紹介や失敗や後悔を避けるためにできることを記載致しました。
「想い」「場所」「ヒト」、「モチベーション」「マーケティング」「オペレーション」について様々記載しましたが、要は、開業後の自分のクリニックを精緻にシミュレーションすることが重要です。知り合いの開業医の先生に聞いたり、実際にクリニックを見学に行かれたり、あるいはクリニックでバイトしてみたり、様々な情報収集の方法があると思いますので試されてみてはいかがでしょうか。また、開業を支援する専門のコンサルタントに話を聞くというのも1つの手段です。一度話を聞いてみてはいかがでしょうか。

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