本記事では、開業を検討されている先生、これから開業をされると決めた先生に対して、クリニック開業においてスタッフ採用を成功させるポイントについてご説明します。
1.クリニック開業までの流れ
一般的な開業までの実施事項をまとめると、以下のプロセスになります。
①開業するクリニックのコンセプトを整理する
②診療圏分析・競合調査(需要と競合数の把握)
③開業エリアの選定・物件探索・選定
④事業計画の作成
⑤融資先の選定
⑥内装会社の選定・工事の実施
⑦必要医療機器の選定・購入
⑧スタッフ採用
⑨HP制作・Web/リアル広告
⑩保健所等の行政手続き
⑪開業準備(動線確認、スタッフ教育、オペレーション確認等)、内覧会等
詳しくはこちらの記事をご確認ください
クリニック開業におけるコンセプトとは?項目やポイントを解説
この記事では、⑧スタッフ採用活動を実施する際の考え方やポイントについて詳しく解説します。
2.スタッフ採用のプロセス
病院で働いていた先生はこれまで診療・医療技術に研鑽を積み、人事や労務、採用活動などの業務に携わった経験はあまりないのではないでしょうか。
一般的な採用のプロセスは以下です。
1.必要な人材の明確化
2.求人方法の検討
3.採用活動
4.入職手続き
各プロセスにおいて、特に開業前、開業初期に気を付けるべきポイントを紹介します。
2-1.必要人材の明確化
先生は看護業務や検査業務については理解されていると思いますが、診療点数や保険種別、レセプト請求などの医療事務業務についてまでは、手が回らないかと思います。そのため、開業当初においては、医療事務スタッフの重要度は相対的に高くなり、会計周りを扱えるスタッフということで、先生が信頼できる方を探すべきです。
現在の雇用先から引き抜く行為は、トラブルにならないように避けたほうが良いですが、友人や知人からご紹介を受ける動きは早目から実施しておく必要があります。
クリニック開業をすると決めた瞬間から開業スタッフの採用は始まります。クリニックのコンセプトや自身のやりたいことを整理しながら、まずは知り合い伝手に声をかけるようにしましょう。
信頼できる方というのが最初の条件だと思いますが、次に業務内容です。
上記の理由のように先生に事務業務の経験はほぼないと思いますので、まずは受付・レセプト業務を任せられる人を雇うべきです。
次に診療の補助業務です。基本的には看護師が当てはまりますが、知り合い経由での採用が難しい場合、募集、人材紹介会社の活用等を検討する必要があります。
しかし、地域や診療時間、開業時期、開業準備の忙しさによっては人材が集まらないなど採用活動に苦戦することが往々にしてあります。そのため、看護師でしかできない業務もありますが、一方で、その業務はクリニックにおいて頻度が多いのか、臨床検査技師でも可能か、事務スタッフでも可能な業務はないかなど、診療補助を任せる職種の幅を広く構えておく必要があります。
また、雇用形態も重要な選択肢です。
安定や離職率の観点で正社員雇用にこだわるという考え方もありますが、必ずしも正社員である必要はありません。パートや派遣のスタッフでも専門性を持つ優秀な方はもちろんいます。夜間診療を実施する場合や正社員の休暇調整、繁忙期のヘルプなど労働環境の安定性を確保する観点でも正社員・パート/派遣など雇用形態の組み合わせも検討するようにしましょう。
2-2.求人方法の検討
スタッフの採用方法としては、先述の知り合い伝手の紹介はまず実施した方が良いと思いますが、それだけではなく、様々な媒体・方法があります。
ですので、その媒体別の特徴を捉えておくことが重要です。
・人材紹介会社
一定の費用は掛かりますが、適切な人材を集めるためにクリニック専門の人材紹介会社を利用する手段があります。正社員かパート/アルバイト等の非常勤などの勤務形態や賃金、勤務時間、週労働日数などの希望条件を伝えると希望に合った人材を紹介してもらえます。
手数料の相場は成果報酬で年収の20~30%程度で、高額ですが成果報酬型ということもあり、希望条件を伝えておき、相談したり人材確保のルートとして置いておくのも一つの方法です。
・広告媒体
求人ポータルサイトと呼ばれる、求人をWeb上で広告できるサイトも多数存在します。
所定の費用を月額でお支払いし求人広告を掲載するものや無料で掲載できるものなどがありますが、掲載上のどの部分にどれくらい引き合いがあるかなど、経験のある方にお聞きした上で一度文案を作成・確認してもらうのが良いかと思います。1つの媒体で効果的な文案が作成できればそれを他サイトにも活用できます。
また、クリック数や閲覧数などを分析できるサイトもありますので、それら数値を参考にしつつ文案を改良していくというのも良い方法だと思います。
・自院ホームページの求人
ほとんどのクリニックで実施されているのが、自院のホームページを用いての求人です。
開業の半年前程度からホームページを制作されると思いますが、その際に採用ページも作っておくようにしましょう。
先生の写真や院内の写真、求める人物像やクリニックが将来目指すことなど、先生の人となりがわかるようにすると、求職者も応募がしやすくなります。ホームページだけでは応募数は少ないですが、上記のようなポータルサイトで情報を見ながらホームページにアクセスする応募者が大半だと思いますので、広告に記載しきれない自院の方針やクリニックのスタッフ方の情報を記載しておくようにしましょう。
その他、無料で実施したい場合、ハローワークを活用した求人も可能ですので、並行して実施しておくのも良いでしょう。
開業前/開業初期の求人におけるポイントとしては、オープニングスタッフであると強調することをおすすめします。理由としては、以下が挙げられます。
・開業時のメンバーであり、共に仕組みを創っていく意気込みのある方を採用できる可能性があること
・他院の募集も多い中で、差を打ち出せること
・人間関係などの働く環境を気にされる方が比較的多い中で、オープニングスタッフではそのような人間関係はゼロベースなので、人間関係に懸念を持つ応募者にとってはポジティブに捉えられること
求人媒体への書き方として、参考にしてみてください。
2-3.採用活動
求人媒体の選定をし、応募を開始します。応募要件や、求める人物像、選考のプロセスなどは媒体やホームページ等に掲載すると思いますが、一般的に①書類選考②面接③選考が一般的な採用活動です。
採用活動の管理全体において、応募者の選考状況と応募経路、結果を一覧にしておくことが重要です。選考時の面接・採用可否の連絡のメール文面はあらかじめ用意しておき、応募者への対応に抜け漏れがないようにしておきましょう。
①書類選考
書類選考はできるだけオンラインで完結させましょう。
応募者が多いと書類選考結果や面接連絡だけでも大変です。応募用のメールアドレスを設け、すべての応募を一つのメールアドレスに集中させると、漏れを防止できたり、効率がよくなりますので参考にしてください。
当然ですが、応募案内に職歴と志望動機を記載するよう書いておきましょう。
書類選考で見るポイントとしては、様々あるかと思いますが、ホームページや募集要項を読んだ上で応募しているかどうかをまずは確認します。
次に志望動機ですが、クリニックのコンセプトや求める人材像に応えるような動機を書いている人は志望の熱量が高く、求められた業務の背景を推察できる方が多いように思います。
職歴や業務歴でスキル面だけではなく、基本的な仕事への姿勢、熱量で絞るようにしましょう。
②面接
では面接の工程ですが、方式と内容に分けて記載します。
<面接形式>
昨今ではWeb会議ツールが普及しているため、オンラインで実施されているクリニックも多いと思います。もちろん効率面でいうとオンライン面接だけで良いと思いますが、応募者の人柄が見えにくいのが難点です。リソースが許すならば、オンライン面接でふるいにかけた上で、実際に会って最終面接を行うという両輪で実施してもよいと思います。
<面接内容>
面接の目的は求める人物像に合致した方を選考することですが、求める人物像をすべて言語化することはほぼ不可能です。ですので、ポイントとしては面接しながら求める人物像を固めていくことが重要です。求める人物像の言語化が難しい場合、雇いたくない人物像を検討してみると、求める人物像が見えてくるかもしれません。
では、面接時の質問内容ですが、応募者の人柄を聞ける魔法の質問はありません。想定の質問を用意しておき、応募者ごとの違いを振り返り、実施しながら学んでいく必要があります。
また、応募者は面接の場で緊張していることが多いため、できるだけ回答を引き出しやすい雰囲気作りも重要です。面接側の自己紹介や自院の紹介などを冒頭行うなど、ざっくばらんに意見が出やすい雰囲気を作るようにしましょう。
最後に質問例とそのポイントを示します。
・志望動機
定型文的な動機を聞くのではなく、その判断基準や背景を聞くことがポイントです。
数あるクリニックの中でなぜ当院なのか。その選定の判断基準は何か。判断基準として重要視している理由は何か。など
・前職の退職理由
理由は様々あるかと思いますが、ネガティブかポジティブかを聞くことがポイントです。
前職を続けることと当院へ転職することの違いをどう考えているか。ライフスタイルの変化が理由であれば今後も転職があり得るか。ご自身のキャリアプランや目標はあるか。など
・仕事で苦労した経験、学ぶ力
応募者のストレスを感じる理由や状況を聞き、その状況を打破するために工夫したことを聞くことで、職場におけるストレス源や逆境を学びに変える力があるかを確認することがポイントです。
職場において何に一番ストレスを感じるか。その状況を打破するために自分が行ったことは何か。苦労した経験から学んだことは何か。など
・目標、向上心
個人的な感覚ですが、仕事における目標がある人とない人では仕事への熱意が全く異なります。求める人物像として熱い人材を欲していない場合は特に聞く必要はありませんが、自分で成長していく原動力を持った方には必ず目標があります。何がしたいか、どうなりたいかなど漠然とでも目標の有無は確認しておいても良いと思います。
これまでの経験でやりがいを感じたのはどんなときか。それはなぜか。やりたいことや目標は何で、なぜそう思うのか。スキルアップのためにこれまで何をしてきたか。今後は何をするのか。など
③選考
選考については、先生やクリニックの方針に応じて基準が異なりますし、応募状況によっても異なると思いますので、一概にこの方法が良いということは言えません。
一般的には、雇用形態、スキル、マナー、コミュニケーション力(人あたり、軋轢を生まない等)、ITリテラシー、コンセプトへの共感度合い、行動力、問題解決力、ストレス耐性などの項目で行動特性や能力を定義し、選考します。求める人物像に照らし合わせ、できるだけ合致する方を選ぶようにしましょう。個人的には、開業時のメンバーはできるだけコンセプトへの共感度合いを重視すると、より組織としてまとまりが良くなると思います。参考にしてください。
また、先生1人で選ぶ場合もあれば、既に共に働くスタッフが決まっている場合、そのスタッフにも意見をもらうことも重要です。了承を得られるのであれば、オンライン面接を録画などしておき、一部スタッフへ共有し意見を聞いてみるようにしましょう。
2-4.入職手続き
選考を行ったら内定通知を連絡します。
通常3日以内程度で連絡することが多いです。面接終了時に応募者にもいつまでに連絡するかは予め伝えておきましょう。
内定通知の連絡をする際に入職意志や初回勤務日などを調整した上で、「内定通知書」を送付します。開業まで期間がある場合には内定通知書に加えて、応募者から「内定承諾書」に署名・捺印をもらっておくと安心です。
その後、就業場所・勤務時間・雇用形態・労働条件等を記載した「労働契約書」を取り交わします。また、開業時には開業日よりも前に全スタッフの日程を調整し、まとめてオリエンテーションや業務のオペレーション確認などを実施しておくと安心です。中途採用の場合は、個別に初回勤務日にオリエンテーションを実施するようにしましょう。
ここまでが入職前の手続きですが、入職後の手続きも様々あります。
本記事では全ての項目を説明しません。実際の入職手続きについては、漏れがないように調査するようにしてください。
大きくは、社会保険・労働保険、税務関係の手続きです。
正社員、週20~30時間以上の非常勤者(対象の詳細は別途ご確認下さい)に対して、社会保険、労働保険の届出を行います。また税務署にも「給与支払事務所等の開設届出書」を提出する必要があります。
税理士や社労士等がいる場合には、実際の手続きをお任せしても良いですが、人件費率の把握や、無理な労働を強いることなく適切な労働環境を組成するためにも、労働基準法や社会保険の仕組みなどは経営者として理解しておく必要があります。是非調べておくようにしましょう。
3.まとめ
以上、クリニック開業におけるスタッフ採用を成功させるポイントを、採用プロセスごとに説明しました。
開業すると決めたら、知り合い経由で紹介を受ける動きを早めから始めることが最も重要です。その際に、「求める人物像を明確にする」ことが採用の肝です。
しかしながら最初から全てを言語化するのはほぼ不可能です。クリニックのコンセプトや先生の想いをしっかりと整理し、実際に面接を重ねていきながら、固めていくことになると思います。
面接時の質問内容や人柄を深堀する質問設計など入念に準備した上で面接を実施することで学びも多くなり、求める人物像を固められるようになるでしょう。
知り合いの開業医に採用の要諦をお聞きすることも一つの手です。情報収集も早めから行うようにしましょう。
弊社では、開業コンサルの一環で、スタッフ採用におけるHP掲載やその他媒体への掲載のご支援を実施しております。
スタッフ採用の際に、ご不明点がありましたら是非弊社にお問い合わせください。
先生の想いの壁打ち相手から、開業エリア選定、物件選定はもちろん、事業計画の策定支援、その後の開業準備のご支援、開業後のご支援も行っております。
開業に際し、フラットに先生の意思決定をサポートさせて頂き、開業後の経営についてもサポートさせて頂きますので、是非一度お話を聞かせてください。
宜しくお願い致します。
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